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20040629

トルコはヨーロッパか?

日英同盟を結ぶまでの英国の外交政策を「栄光ある孤立」と呼ぶことになぞらえて言うならば、トルコが陥っている境遇は「栄光なき孤立」である。
彼らの宗教はイスラムであるが、トルコ人はアラブではない。
トルコ人は自らをヨーロッパ国家であると規定しているが、キリスト教徒ではない彼らをヨーロッパは受け入れない。
中央アジアのトルコ系諸国に特に最近、接近しているが、現在のトルコ共和国が位置するところは中央アジアではない。
各勢力のバランサーでもないトルコが、孤立していていいことなどほとんどない。
この特殊性がかつては誇りであったこともあるだろう。なにしろ彼らは中東の支配者であり、それどころか南東欧の覇者でもあったのだから。
オスマン帝国の精鋭で鳴らしたイェニチェリ軍団は血統的にはほとんどヨーロッパ人であったし、スルタンのハーレムには白人女性が入れられることが多かったことから、歴代のスルタンもヨーロッパ人との混血だった。
例えば、西欧式に軍隊改革を行ったマフムト2世(位1808〜39)は母親がフランス人である(エイメ皇太后、フランス皇后ジョゼフィーヌの従姉妹)。
一部とは言え、ヨーロッパを支配した結果、ヨーロッパ人との混血が進み、ヨーロッパの歴史に深く関わってきた(多くは敵としてだが)トルコが、自らをヨーロッパであると主張することにまったく理がないというわけではない。
しかしトルコ人はまた、オスマン帝国時代を通じてイスラム世界の盟主にしてメッカ、メジナ、イェルサレムの保護者だったのであり、イスラム国家の中でも特にイスラムを代表して西欧諸国と敵対してきたトルコを、ヨーロッパと認めることは、ヨーロッパのキリスト教性を否定することになる。
アメリカ合衆国と比較して、現在の欧州諸国ははるかに非宗教的ではあるが、それでもその文化がキリスト教に根ざしているのは間違いないのであって、トルコが望むように、トルコをEUに迎え入れれば、EUは単なる法的機関となり、アメリカ合衆国やロシアと対抗していくまとまりある文明圏とは呼べなくなるだろう。
トルコをEUに加盟させないために、EUはさまざまなハードルをトルコに与えているが、そうした個々の問題ゆえにトルコは拒絶されているのではない。問題は誰しもが分かっていながら、公には認められないこと、つまり宗教であるのだ。
ヨーロッパ内部にもイスラム教徒はいる。従って、絶対にイスラム教を排除したいとは口では言えないが、ヨーロッパというナショナリズムにはキリスト教の土台が必要なのだ(と、多くのヨーロッパ人は考えている)。
シャルルマーニュがイスラム教徒を撃退し、ヨーロッパのイスラム化を防いだことに「安心」出来なければどうしてヨーロッパ人といえようか。
今回、ブッシュ大統領がトルコを訪問し、トルコのEU加盟を支持すると表明したことについて、シラク大統領がかなり強い語調で(“Not his concern”)不快感を示したようだ(BBC NEWS から)。
EUの一番の泣き所に辛子を塗りつけたような行為である。
もちろんシラク大統領がそのような不快感を示すのは折込刷りであろうし、だからこそそれを言うだけの意味が少なくともブッシュ大統領にはあったわけだ。
統治の原則は、分割統治である。アメリカにとって分裂したヨーロッパこそ好ましい(だからこそ、フランスやドイツにとってEUの意味があるというものだ)。
そのEUの結束を、トルコという超異分子が入ることによって乱すことが出来るならば、アメリカにとってこれほど万々歳なことはない。
サッカー好きな人はご存知だろうが、サッカーの世界では、トルコはヨーロッパに組み込まれている。
特にイスタンブールをホームタウンとするガラタサライは1999年度のUEFAカップを獲得したことから聞いたことがある人は多いだろう。
しかし政治の世界はシビアである。
トルコよ、サッカーくらいで満足してくれ、というのがヨーロッパ人の偽らざる感情だろう。



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