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20040707

心的外傷としてのデュカキス

過去6回のアメリカ大統領選挙の両党候補者の出身地を、北東部・南部・中西部・西部に分け、大統領当選者に4点、副大統領当選者に3点、対立大統領候補に3点、対立副大統領候補に2点と点を振り分けた場合、各地方ごとの得点は以下の通りになる。
なお、ここで言う出身地は「生まれた場所」ではなく、その人物の政治的地盤を指している(従って、例えばロナルド・レーガンの出身地はイリノイ州ではなくカリフォルニア州、アル・ゴアの出身地はワシントンDCではなくテネシー州としている)。表はこちら。

 北東部 7点
 南部 39点
 中西部 13点
 西部 13点

となり、南部出身者の圧倒的優位と北東部出身者の苦戦が浮き彫りになる。
南部出身政治家が“好まれている”だけではなく、北東部出身の政治家が南部からのみではなく他の地域でも支持を受けていないという構図が浮き彫りになる。
これは保守派が南部に多く、リベラル派が北東部に多いことから基本的には保守派のリベラル派に対する優位を見いだせるのではないだろうか。
もちろん、南部出身者に加算したカーター元大統領のように、南部出身でありながらリベラリストという例もある(ただしカーターはキリスト教原理主義者でもある)。
クリントンのように南部でありながら比較的リベラルという人もいるにはいるのだが、デュカキスのように北東部出身のリベラリストが叩きに叩きまくられたのに対して、南部出身者に対する風当たりは相対的に弱いとも言える。
1988年の大統領選挙で、共和党は、民主党候補のデュカキス・マサチューセッツ州知事に対して徹底的なネガティヴ・キャンペーンを行った。
それまでの大統領選挙が基本的には政策の提言、あるいは相手候補への反論をキャンペーンの主軸にしていたのに対して、流れがはっきりと変わったのが1988年の大統領選挙だった。
以後、自分を売り込むのと同じくらいかもしくはそれ以上の熱心さでもって、事実を曲げ、誤解を肥大化させ、とにかく相手を叩き潰すというネガティヴ・キャンペーンが盛んになっていく。
この時の共和党の候補者、ジョージ・ブッシュ・シニアは、レーガン政権における副大統領でありながら、新たに共和党の主流となりつつあったレーガン・リパブリカン、あるいはレーガン・デモクラットからは自分たちの仲間ではないと見なされていた。
レーガン自身、政治家としてのブッシュ・シニアを大して評価していなかったことは後に漏れ聞こえてくることになる。
すでに8年に及ぶ共和党政権への“飽き”、8年間副大統領にあったために染み込んだ「第二線級の人物」というイメージ、新保守主義者たちから向けられるさほど熱心でない眼差しを考えると、ブッシュ・シニアは決して強力な大統領候補ではなかったのである(実際、4年後には現職でありながら落選してしまうし)。
ブッシュ選対が対立候補であるデュカキスを貶めるために使ったやり方は、ある意味、非常に“秀逸”だった。
「彼は悪党である」と言われれば「悪党ではない」と反論できる。
「彼は愛国者ではない」と言われれば「私は愛国者である」と切り返すことが出来る。
しかしリベラルな人間が「彼はリベラルだ」と言われた場合、それは“事実”であって、「その通りだ」と言うしか出来ない。
問題は“リベラル”という言葉に、「だらしなさ、不道徳、無秩序、退廃」というイメージを込めて、まったく新しい用語としたことである。
もしこのようなことが正当ならば、保守を「因習にとらわれた封建主義者」と見なすことだって可能なはずである。
もちろん、いわゆるリベラル的な政策がしばしば観念論に過ぎ、現実の国民の欲求から乖離していたということもあるだろう。
しかしリベラル的な政策が施されていたのには相応の必然があったからなのであり、ではそれをどうやって改めて問題を克服するかという視点からではなく、あくまで手段としてのリベラルを叩くために、このレッテル張りは多用されたところがある。
結果的に大統領選挙としては「大差」に部類される8%の得票差で、しかも与しやすいと見られていたブッシュ相手に敗れたことで、民主党はリベラルというレッテルを極端に恐れるようになった。
リベラルではなく「中道」だということを示すために、保守的な地盤とされる南部の出身者が、優遇されるようになったのだろうか。

ケリー民主党大統領候補が副大統領候補に最後まで民主党の指名争いを戦ったエドワーズ上院議員を副大統領候補に指名した(BBC NEWS より)。
これは南部出身のエドワーズ(ノースカロライナ州出身)をランニングメイトとすることで、実際以上にリベラルに見られがちなケリーのイメージを緩和しようとするものだろう。
ケリーは北東部出身者ということで、最近の大統領選挙を見る限り、地盤的には弱い。
今回、たまたまブッシュ大統領が「暴走」しているがために相対的に現時点ではケリーの支持率が高いが、大統領選挙を制するためには「非ブッシュ」の保守層を取り込んでいかなければならない。
同性愛者の結婚問題に見られるように、ブッシュが中道から保守へ更に軸足を移動させて保守層の囲い込みに走っているのに対して、保守、特に南部の保守をウィングを広げるためにケリーが出した策がエドワーズということだろう。
保守を切り捨ててリベラルを取り込むと言う路線が取れない以上、南部出身者は南部の保守層を取り込むためにこれからもしばらくは重用されるだろう。



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