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20080427

カトリックの英国王

Telegraph.co.uk の記事で、カトリックにも英国王位継承権が認められるよう政府が王位継承法の改正に乗り出そうとしている、という話があった。
1701年、英国王ウィリアム3世は、王位継承法を発布した。
それは名誉革命の結果、成立したプロテスタント体制を維持するために、カトリックのスチュアート王家を排除することを主眼とした法律だった。
それによれば、英国王位継承権所有者はスチュアート王家の子孫であり(正確にはハノーヴァー選帝侯妃ゾフィーの子孫であること)、なおかつプロテスタントでなければならないとなっている。
当人がカトリックに改宗したり、カトリック信者と結婚した場合、王位継承権を失う。

この法律は今も有効で、過去に何人もの英国王室のメンバーが、カトリックに改宗したりカトリック信者となったために、王位継承権を失った。最近では、 2006年に王位継承権第27位だったニコラス・ウィンザー卿(国王ジョージ5世のひ孫。女王エリザベス2世の父方の従兄弟の次男)がカトリック信者のクロアチア人女性と結婚し、自らもカトリックに改宗したため、王位継承権を失った。
5月に、女王夫妻にとっては初孫にあたるピーター・フィリップス氏(アン王女の第一子で長男)が結婚する予定だが、彼は現在王位継承権第11位にあたる。お相手のオータム・ケリー嬢はカナダ人の経営コンサルタントで、カトリック信者であるため、彼女と結婚すれば、ピーター・フィリップス氏は王位継承権を失うことになるだろう。
もちろん実際には、王位継承権11位という位置は何の意味も持たない。実際に王位を継承する見込みは万に一つもない。
従って、ピーター・フィリップス氏の「失われた王位継承権」はほとんど無意味な肩書きがひとつ失われるというに過ぎないが、彼も産まれた時点では、王位継承権第5位だった。
今後、より上位の王位継承権者、たとえば、王位継承権第2位のウィリアム王子や第3位のヘンリー王子がカトリック信者と恋に落ち、結婚したいということになれば、現在の王位継承法は深刻な問題を引き起こす可能性がある。
カトリック教会や信者たちは、現在の王位継承法を当然のことながら差別的だと抗議し、国家に残された唯一の宗教差別法として直ちに改正すべきだと主張している。
19世紀末期に、規定が改められるまで、英国ではカトリック信者は公職や公務員から「合法的」に締め出されていたが、そうした規定もあらかた廃止された。王位継承法に残るカトリック排除は、唯一残されたカトリック差別の残滓だとも言える。
夫人がカトリック信者だった、ブレア前首相は王位継承法をより宗教的に平等にするよう、改正する意向を示したが、彼の長い在任期間中、実際には何もしなかった。
いざ、検討に乗り出せばなかなか厄介な問題をはらんでいることも明らかになったからである。
英国の王/女王は国家の君主であると同時に英国国教会の首長でもある。
そうした中で、英国国教会の首長がカトリックであるとしたら、いかなる混乱が生じるのか。
そうした状況の最後の実例となったジェームズ2世は、名誉革命で王位を追われた。
で、あるから、王位継承をカトリック信者にも開く改正をなす時、あらかじめ英国王室と国教会を分離しておく必要がある。
それには国教会側が抵抗を示している。
理念的には宗教平等のうえから重要ではあるが、実際には非常に困難でなおかつ実利に乏しいこの改正に、保守党は不熱心か反対であろうから、労働党政権のうちに改正されなければ、まず頓挫することは間違いない。



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