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20080502

ERII

1707年にイングランドとスコットランドが連合王国となって以後、12人のグレートブリテン王/女王がでている。彼らの「名乗り(君主としての名前)」を見ると、3つに分類できる。

1.イングランドでもスコットランドでも連合王国以前には君主の名前としては用いられていなかった名前
アン、ジョージ(1世から6世まで)、ヴィクトリア
2.イングランドでのみ君主の名前として用いられていた名前
エドワード(7世と8世)、エリザベス(2世)
3.イングランドでもスコットランドでも過去に用いられていた名前
ウィリアム(4世)

一番目のカテゴリーの名前は、連合王国になってから初めて用いられたのだから、代数の問題は生じない。代数の問題とは何か?
二番目のカテゴリー、エリザベス2世を例にとれば、彼女はイングランド女王ではなく連合王国女王であって、連合王国の君主としては初代のエリザベスである。
連合王国女王として「エリザベス1世」を名乗ってもよさそうなものだが、実際にはエリザベス2世を名乗っている。イングランド女王エリザベス1世を継続性のある先人とみなしているわけである。
同様に、エドワード7世は連合王国王だが、エドワード6世はイングランド王であって、エドワード6世までをカウントして、7世を称しているということは、連合王国をイングランドの継承国家と見なしている、ということである。
では、スコットランドはどうなのかと考えるに際しては、三番目のカテゴリーが参考になる。
ウィリアム4世が即位するよりも前には、スコットランドには2人のウィリアム王が、イングランドには3人のウィリアム王がいた。
このうちスコットランド王ウィリアム2世と、イングランド王ウィリアム3世は同一人物である(同じ人がイングランド王でもありスコットランド王でもあった)。
連合王国の王ウィリアム4世の「4世」は明らかにイングランドにおける代数のカウントを基にしている。このことから、代数のカウントは、スコットランドでのカウントよりも、イングランドでのカウントが優先される、とも言えそうだが、結論を急がないほうがよさそうだ。
別の可能性もあるからである。
つまりイングランドとスコットランドで代数が異なる同名の君主が過去に存在する場合、「代数の多い方を基準にしてカウントする」ということも考えられるからだ。
ウィリアム4世が「4世」なのはイングランドでのカウントをスコットランドでのカウントに優先させているのではなく、単に代数が多い方を名乗っている、ということもあり得る。
私がいろいろな人に聞いたところでは、どうもこの方法がとられているようである。
「ようである」と頼りない言い方になってしまうのは、はっきりとそれと示す資料を私がいまだ入手できていないからだが、話を総合すると、そういうことになるらしい。
つまり、イングランドではデイヴィッドを君主名として名乗った王は過去にはいないが、スコットランドには2名いる。
新たに連合王国にデイヴィッド王が即位すれば、「代数の多い方を優先して」デイヴィッド3世になる可能性が高いということだ。

このことは筋は通っているが非常にややこしい状況をもたらすことが予想される。今のところは、一応は代数のカウントにおいて、結果的にイングランド王国と連合王国には首尾一貫したつながりがあるのだが、スコットランドにおける代数を優先させる場合、この首尾一貫性が損なわれる。
連合王国にデイヴィッド3世王が登場すれば、実際にはイングランド王デイヴィッド1世やデイヴィッド2世は存在していないにも関わらず、そういう人物がいたのだろうと類推されてしまう危険が生じる。
このため、「スコットランドの方がイングランドよりも代数が多い君主名」は実際には連合王国の君主名としては避けられることが予想される。
それに相当するのは以下の名前である。

ケネス、ドナルド、コンスタンティン、アレキサンダー、ジェイムス、エイ、ヨーカ、マルカム、ダンカン、インダルフ、ダリン、カフ、デイヴィッド、マクベス、ルーラッハ、マーガレット、エドマンド、エドガー、ロバート

これらの名前が王/女王の名前として連合王国で用いられることはまずないだろう。女王の夫で述べたように、メアリー1世の夫として、スペイン王フェリペ2世は結婚期間中、イングランド王フィリップでもあったのだから、この「女王の夫である‘夫’」を代数に含めるかどうかという問題も生じさせるので、フィリップ、なる名前も避けられるに違いない。

[追記]
灯台下暗し、で、wikipedia の「スコットランド」の項目に該当部分が掲載されていた。
スコットランド - Wikipedia
1952 年にエリザベス王女が連合王国の国王に即位した際、その呼称が「エリザベス2世女王」(Queen Elizabeth II)となることをめぐって問題が生じた。というのも、イングランドには過去に同名の国王(エリザベス1世)がいたが、スコットランドには過去に同名の国王がいなかったので、イングランドを基準にすれば新国王の呼称は「エリザベス2世女王」であるが、スコットランドを基準にすれば新しい国王の呼称は「エリザベス(1世)女王」(Queen Elizabeth)となるからである。

そこで、スコットランドの民族主義政党であるスコットランド国民党の指導的立場にいたジョン・マコーミックは、新国王がスコットランドにおいて「エリザベス2世女王」と名乗ることは1707年連合法違反だとして裁判を起こした。裁判の結果はマコーミックの敗訴であった。王がどう名乗るかは国王大権(royal prerogative)に属することであり、マコーミックに裁判で争う権利は認められないとされたのである。これでエリザベスはイングランドでもスコットランドでも「エリザベス2世女王」と堂々と名乗れるようになった。

なお、イギリスの郵便ポストには王の名が頭文字で刻印されているが、エリザベス2世即位後にスコットランドに設置された郵便ポストは王冠が描かれているのみで王の名は書かれていない。これは、彼女の呼称に不満を抱いた一部の過激な民族主義者がエリザベス2世の名が刻印された郵便ポストを破壊したり、「2世」の部分を削り取ったりしたためである。

エリザベス 2世は後に将来においても発生し得るこの問題を公平に解決するための新基準を提案している。スコットランド基準とイングランド基準で呼称の「~世」の部分が異なる場合、数値が大きな方を採用するというものである。たとえば、将来ジェームズという名の王が即位する場合、イングランド基準では「ジェームズ3世男王」(King James III)となるが、スコットランド基準では「ジェームズ8世男王」(King James VIII)となるため、大きな方の「ジェームズ8世男王」を採用するというものである。ただし実際にこのようなことが起きたとしても、この基準を新国王ジェームズが採用するとは限らない。裁判所が表明したように、どう名乗るかは国王大権に属することであるから、「ジェームズ3世」と「ジェームズ8世」のどちらを名乗るかはそのジェームズに委ねられるからである。

この新基準は過去に遡って適用することが容易である。1707年以降この呼称上の問題が生じるイギリス国王は4人(ウィリアム4世、エドワード7世、エドワード8世、エリザベス2世)いるが、この新基準の適用を受けても4人の呼称はイングランド基準のままであり、変更の必要がないからである。



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