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20080504

連合王国

イギリスの正式な国号は、
United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland
である。アメリカ合衆国の正式名称、
United States of America
と似ているが、重要な相違はアメリカにおいて State は States と複数形になっているのに対して、United Kingdom は複数形にはなっていない点である。
「合同する」には主体が複数に分かれている必要がある。複数であるから「一緒になる」ことができるのだ。アメリカ合衆国の場合、複数の州が寄り合ってひとつの国家を形成するという、素直な作りの国名になっている。では連合王国はなぜ複数形になっていないのかと考えると、複数の王国が連合して連合王国を作ると言うよりは、連合王国というひとつの国がそこに成立したのだ、という事情による。
つまり United Kingdom はそれ自体がひとつの固有名詞なのである。
連合王国を規定する連合法はスコットランドとイングランドの合併を規定した1707年連合法と、連合王国とアイルランドの合併を規定した1800年連合法がある。
いずれの場合も各国の従来の議会は解体され、新たに統一的な連合王国議会が形成されている。
1800年連合法の第一条では、

in the year of our Lord one thousand eight hundred and one, and for ever after,
be united into one kingdom, by the name of the United Kingdom of Great Britain and Ireland

と、「ひとつの王国になる」と明記されている。
つまり1707年連合法ではイングランド王国とスコットランド王国が解体されグレートブリテン連合王国が成立し、1800年連合法ではアイルランド王国(イングランド王、ならびにグレートブリテン王が王位を兼務)とグレートブリテン連合王国が解体して、グレートブリテンおよびアイルランド連合王国が成立した、ということである。
そういう意味では、先の項目で紹介した、エリザベス2世がイングランドの先人を踏まえて「2世」を名乗るのは連合法違反である、というマコーミックの主張はそれはそれで道理があると言える。
連合王国が成立した時点で、それも1800年の連合法が形成された時点で、その君主は新たにカウントされるのが本当だということになる。
ただ、王/女王が自分の名前として何を名乗ろうが国王大権に属することだとするならば、極端な話、過去の歴史とはなんら通じるところのない、たとえばアーサー129世などと名乗ったとしてもそれはそれで自由だということになり、実際、法理的にはそうなのである。
もちろん法理的にはともかく、現実には、イングランドとの継続性が重視されているのは明らかであって、だからこそマコーミックがエリザベス2世の名乗りにスコットランド人としてクレームをつけた意味が生じるのである。
スコットランドは1999年に独自議会を制定し、2007年の同議会選挙でスコットランド民族主義政党のスコットランド民族党が第一党を占め、党首のサモンドがスコットランド首相に就任したが、これは連合王国政府が実際にはイングランドに限りなく同義であるからである。
エリザベス2世即位の際には、名乗りに対してスコットランド側からクレームが生じたが、それよりも前の国王、エドワード7世、エドワード8世、ウィリアム4 世にも同種の問題が生じたはずなのに、あたりまえのようにイングランド王国を起点としての通代が計られたということが、スコットランドがいかに二級の地域として軽視されてきたかの表れである。
ロンドンの政府、バッキンガムやセントジェイムスに住まう王たちは、ひとつの国、連合王国が成立したと言いながら、実際にはイングランドであり続けたわけで、連合王国という虚構の虚構性ゆえに、スコットランドの独自行政をなすことさえ適わないことが1999年まで続いていたのである。
つまりアメリカが United States であるように、連合王国が United Kingdoms であったならば、複数の並立した王国政府があっただろうと想定され、その限りにおいて地方における主権は確保できていたのではないかと考える。
Kingdoms から複数形の s が欠落したために、それは限りなくイングランドと同義になってしまった。
エリザベス2世以前の王たちはそれが当たり前であるかのように、連合王国成立を起点として自らの名乗りを決定することさえしなかったのだ。



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