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20080516

アメリカ合衆国大統領継承順位

アメリカ合衆国の場合、厳密な三権分立が定められているから、副大統領が上院議長を名目的に務める例を除いて、行政職の政治家と立法職の政治家が交差することはない。
例外的とも言えるのが、アメリカ合衆国大統領継承順位であるが、これには、下院議長や上院仮議長が順位の上位に含まれている。
しかし、実際に仮に彼ら立法職の政治家が大統領職を継承した場合には、立法職を辞めなければならない。その点、同時に立法職と行政職を兼務できないという三権分立の要諦は守られているのである。
実際に、大統領が死亡するなり辞任するなりなどをして、大統領職が継承された例としては、9例ある。
この他、大統領権限が一時的に委譲された例としては、2例あり、そのいずれもが、副大統領による継承・代行である。
仮に、副大統領が何らかの事情で不在の状況で、その次に大統領職を継承する者は下院議長であるが、一時的に大統領職を代行する場合であっても、三権分立の必要から、その場合、下院議長は下院議長と下院議員の身分を辞任しなければならない。
なぜ副大統領の次の継承者が上院議長ではなく下院議長なのかというと、上院議長とはつまり副大統領だからだ。上院議長職を副大統領は兼務するが、この職分は実際には名誉職以上の意味合いはなく、副大統領は立法府には基本的には関与しない。
副大統領が行うのは、票決で可否同数となった場合の決定だけである。
実際の議長としての職分は上院仮議長が行い(下院議長に次ぐ大統領職継承者)、日常の議事運営は上院仮議長代行が行う。
上院議長と副大統領が兼務されていることを、立法府による行政府への権限の侵攻と見るか、もしくはその逆と見るかは難しいところである。
先述の通り、実際には上院議長の職分は名誉職以上の意味合いはないのだが、可否同数の場合、つまり国論が真っ向から対立している重要な局面において、行政府が立法権を左右できる僅かな可能性があることを意味しているのも確かなことだ。
実際にはこうした局面はまったく稀というわけでもない。
思うにこの部分は、アメリカ合衆国憲法に残された僅かな旧宗主国の英国の議院内閣制の痕跡であり、実際には上院議長の権限の拡張(副大統領職の兼務)が三権分立の厳密な成立とともに、むしろ行政府が立法府に獲得した僅かな足がかりとなったと見るのがよい。
アメリカ合衆国大統領には立法権はなく、政令制定権もない。
現実にそうした立法権限からまるっきり切り離されて行政職は成立しないので、大統領と立法府は非制度的な影響力を行使しあう、補完的な関係にある。
それをつなぐ立場として、副大統領があり、大統領職が危機に陥った場合、むしろ議会指導者の方が閣僚よりも上位に置かれることにつながっている。

現実には、大統領職・大統領権限を下院議長が継承した例はそれに非常に近い例としてはフォード大統領の大統領職継承がそれにあたる。
ニクソン大統領はウォーターゲイト事件の責任をとって大統領職を辞任しているが、それに先立って、副大統領のアグニューはメリーランド州知事時代の贈収賄事件の責任をとって、副大統領職を辞任していた。
フォードはその時、下院議長ではなかったが(共和党が下院で少数派だったため)、共和党の下院院内総務であり、大統領職継承順位に擬して、副大統領職を継承している。
実際には副大統領職の継承順位を定めた法律はなく、必要な手続きとしては上下両院での信任決議である。
実際、フォードが大統領に昇格した後に副大統領に承認されたのは、議会人ではなかったニューヨーク州知事のネルソン・ロックフェラーである。
つまり、フォード副大統領からロックフェラー副大統領への継承は、大統領継承順位は考慮されなかったものの、アグニュー副大統領からフォード副大統領への継承は少なくともそれが参考にされたと考えられる。
しかしここでいう参考があくまで共和党内部での参考であって、厳密に大統領継承順位そのものが参考されたとは言いがたい。
というのも、大統領継承順位にある副大統領に次ぐ継承者は下院議長であって、与党の下院院内総務ではないからである。
ここで、仮に大統領職・大統領権限の下院議長への継承が行われた場合、無視しがたい矛盾が生じる可能性があることを指摘しておかなければならない。
下院の多数党が大統領が所属するのとは別の党、野党である場合、下院議長は当然野党である多数党から出す。
共和党の大統領が死亡し、副大統領も不在の場合、下院議長である民主党の議員が大統領職を継承することもあり得るのだ(あるいはその逆もあり得る)。
これは可能性としてはごく低いものであるが、ニクソン政権で副大統領が不在だった時に、仮にニクソンが暗殺でもされていたならば、当然、当時、下院の多数党を掌握していた民主党の下院議長であったカール・アルバートが大統領になっていたかも知れない。



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