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人頭税は悪い税か?

税というのはどうあっても評判が悪いものであるが、英国のサッチャー政権が末期に導入した人頭税(これは地方税であるが)ほど悪し様に言われたのも珍しかろう。
結局、導入後3年にして廃止になっている。
人頭税とはその名の通り、個々人にかかる税であり、生きている人間である限り特別な免除がなければ支払わなければならない。フローの大小には関係なくかかってくる税だから、逆進性が高いのである。
これが国税でなく地方税というところがミソで、人頭税支持派に言わせると以下のような理屈になる。
誰であれ、政府・自治体・公共機関が提供するサービスを享受している。
水道をひねれば水が出るし、外に出れば道路を歩く。
街路樹に心を和ませるであろうし、図書館も利用しているだろう。
そういうものはすべて税金によって賄われているのである。受益者負担の原則に立てば、経費を単純に頭割りした額を負担するのは無理だとしても、住民である限り幾らかは負担するのが当然であり、それが地方自治体、地域コミュニティへの関心とオーナーシップを高める。
と、いうような理屈になる。
いかにも雑貨屋の娘らしい発想、一族で初めてオックスフォードに進学した女性ならではの中産階級的“self help”世界観であるが、地域コミュニティを世界の基盤に据える発想は、それがイングランド的ではないとは言わないけれども、それよりも優れてピューリタン的であるのを感じる。
The American Guy であったレーガンとは馬が合うはずだ。
人頭税はむろん逆進性はあるわけだけれども、人頭税推進派がいうようなメリットも無視しがたいもののように私は思う。サッチャーはこれを固定資産税の廃止とあわせて実行したために、いうまでもなく資産家に有利で貧困層に不利な結果になったのは明らかで、右翼の馬脚をあらわしたというか、これが原因でサッチャー政権はハウ、ヘーゼルタインらの反乱が起こり、終焉を迎えたのだった。

サッチャー政権の例はともかく人頭税が妥当かそうでないかは、実際にどれだけの税が課せられるか、その額の設定にかかってくる。
極端なモデルとして、累進課税による所得税である自治体の税収がすべて賄われており、それをそのまま人頭税に差し替えたならばこれは逆進性がはなはだしくなる。
そうではなく、人頭税をひとりあたま10万円くらいにして、残りを幾つかの税を組み合わせる、そうした柔軟な税収構造を作れば逆進性はずっと緩和されるだろう。
個人にかかる税は、日本の場合は直接税にしろ間接税にしろ、フローにかかるものが中心になっており、ストックにかかるものとしては、固定資産税、相続税が中心である。
つまり資産がなく、所得がない場合は、税が基本的には発生しないという構造がある。
もちろん、生活保護でも受けていないのであれば、資産がない、所得がない状態では生きてはいけないから、その場合は誰かがその人を扶養しているということになる。
親が資産百億円で、当面、当人は相続していないけれども、親の金で遊びまくっている人は、税金を支払っておらず(消費税はその場合、“親”が払っているのである)、時給800円で週休1日でかつかつ食っている人は仮に控除を受けていたとしても自分で稼いだ金で消費しているのだから、税金を支払っているのである。
まあ、このような極端な例はなんだけども、最近問題になっている引き篭もりの場合、何が問題かというと、大抵の引き篭もりには資産もなく所得もないことから税金が取れないことが国家的には問題なのである。
人頭税があれば、人頭税は資産にでもなくフローにでもなく、まさしく個々人にかかるのであるから、額は少なくても「本来、税をとるべき人」から税をとることができる。
税を払ってからであれば、引き篭もろうが何をしようがそれは当人の自由である。国家の問題ではない。
しかし控除すべき特別な理由もなしに、税を払わないのは、国民の義務の不履行であり、それが現在、システム的に可能なのだとしたら、これはシステム上の不備である。
学生でもない、健康上の傷害があるわけでもない、育児・介護などの社会的な責務を果たしているわけでもない人で、成人している人であれば、本来、国民の義務として勤労と納税の義務を負うのである。
仮に人頭税が10万円だとして、それくらいであればそれも含めて親が支払うかも知れない。それは好ましくはないけれど、そこから先は家庭内の自由ということにしておこう。
人頭税が100万円であれば、親も払いきれぬかも知れない。そうなれば、どうしたって働かざるを得ないのである。
学校を出たら就職して、税を納めて、というモデルが、必ずしもあたりまえのものでなくなりつつある以上、フローにかけるというこれまでの税制のありようもまた改めていかなければならない。
人頭税はそのひとつの、解、である。
人頭税導入は引き篭もり対策にとどまらない、「市民社会」の徹底化に貢献すると私は考えているのだけれども、それについてはおいおい述べていこうと思う。



| | Permalink | 2008 log


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