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20040319

ブッシュ大統領は2期目で変われるか?

過去の記事を参照してもらえればお分かりいただけるかと思うが、私はブッシュ政権をほとんど評価していない。
共和党は外交の党と言われ、クリントン政権は外交面でいかにも危うく、その前の民主党政権であるカーター政権が外交面では「人権外交」を打ち出し、散々な結果に終わったことを考えあわせて、やはり民主党には外交はウィークポイントなんだなと改めて思ったものだが、ブッシュ政権のぶっとびぶりはそれをも上回る。
かなり異色の共和党政権である。
散々言われたことだが、やはりこれはネオコンのせいだろう。ネオコンはもともと民主党系ということだが、極めてイデオロギー的な「善か悪か」にぶれやすい民主党外交の悪癖がもろに出てしまった。
共和党の従来の外交政策は、伝統的なバランス・オヴ・パワーを主軸にすえたもので、決して善ではないが、安定的、かつ常識的だった。ブッシュ・シニア大統領の外交政策は、基本的にこの従来型の外交戦略にのっとって形成されていて、冷戦後の難しい時期をそれなりに安定的に運営したのである。
しかしブッシュ・ジュニアの外交はそれとはまるっきり違っていて、ブッシュ・ジュニアがもしシニアの息子でなかったならば、おそらくシニアは率先して現大統領を批判したに違いないと思わせる、はちゃめちゃなものである。
イラク戦争にしても、戦闘に勝って、それでおしまいというわけにはなかなかいかない。そうであるならば、1992年にブッシュ・シニア大統領はとっくにバグダットを陥落せしめていただろう。
それをしなかったのは、イラクに必要以上にコミットする危険性を考慮したからであり(フセイン政権を打倒すればどうしたってアメリカが関与しなければなくなる)、それをするだけの国益がなかったからである。
現在、イラク情勢は泥沼化しており、仮に今後、正統政府が樹立したとしても状況はフセイン政権の時と比較してはるかに流動的であり、長期に渡ってアメリカがコミットしていくのは避けられない。
反抗的なイラク国民を統治するという重荷を背負って、膨大な経済的負担を負いながら、しかもイスラム諸国から敵視される。このことにいかなるアメリカの利益があるだろうか。
ネオコンたちは日独の占領統治を引き合いに出して、楽観的な見通しを述べたが、徹底的に破壊され、反抗心を削いでおいた日独とは全然訳が違うのは子供でも分かる。日独は敗戦したとしても、国家的統一性は固有の民族に由来しており、それが揺らぐ懸念はなかったが、イラクの場合はフセイン政権の崩壊=統一イラク国家の崩壊という可能性が否定しきれないでいる。もしイラク国家そのものの解体が起きた時、この地域で起きるであろうカオスはどれほどの予測不能な悲劇を生み出すことだろうか。
そういう意味では、今回のイラク戦争は余りにも早くかたがつきすぎた。数百万単位の戦死者を出させて、イラク人が精も根も尽き果てた状態になってから占領統治するならばともかく、現状はそういう状態とは程遠い。
もし、そのような徹底した被害をイラク国民に与えていたならば、占領統治はよほどやりやすかっただろうが、それをしていればアメリカはそれこそイスラム諸国全体を敵に回すことになり、その場合の損失は決して無視できるものではなかっただろう。
勝ちすぎても駄目、ようやく勝っても駄目、もちろん負けるのは絶対に駄目、そういう矛盾をこの戦争はあらかじめ含んでいたのである。
そんなことがネオコンに分からなかったとは思えない。彼らも国際政治を学んだプロフェッショナルであり、政治にも歴史にもそれなりに通じているはずだから。
にもかかわらず、彼らはアメリカの国益をも損なうような行動に出た。なぜか。
石油利権を云々する声もあるが、そんなのは小さいことである。石油は重要な戦略物資だが、産油国も売らなければ生きてはいけないのである。石油メジャーは次第に天然ガスへとシフトしていこうとしており、パイプラインをイスラム諸国に着々と敷設している。イスラム教徒を敵に回して、彼らとしては百害あって一利もないのである。
アメリカの国益にも適わない、石油資本の利益にもならないとすれば、ネオコンを突き動かした動機は何であるかと考えると、やはりイスラエルではないだろうか。
中東和平の挫折、アメリカのイスラエル保守派への肩入れを考えると、そんなところではないだろうか。
アメリカの国益とイスラエルの国益には乖離がある。イスラエルはアメリカの重要な同盟国で、中東における橋頭堡だというが、冷静に考えて、イスラエルが存在することによってアメリカが今まで何の得をしただろうか。
「強硬なイスラエル」はパレスチナ人にとって邪悪な存在であるだけではなく、世界の不安定要因でしかない。この異常な現実を改善しようとしたのが、ほかならぬブッシュ・シニア政権だった。
湾岸戦争で獲得した90%を越える支持率をテコにして、歴代の政権が出来なかったユダヤメディアを向うに回してイスラエルの首に鈴をつけようとしたのである。そうした発想は、アメリカの本来の保守本流であるブッシュ・シニアにして可能だった。
しかし90%を越える支持率を過信しすぎて、メディアを敵に回し、結果としてブッシュ・シニアはまさかの落選の憂き目をみた。後知恵だが、ブッシュ・シニアは2期目でそれをやるべきだったのである。
ブッシュ・ジュニアはこの父親の挫折体験に過剰に反応し、ユダヤ=イスラエルに接近した。しかし彼が確かに、ブッシュ・シニアの息子であるならば、2期目にはイスラエルに対して思い切った政策を採る可能性がある。ブッシュが再選されたとして、希望があるとしたら、そこだろう(もちろん変わらない可能性の方が依然として大きいが)。
この「危険性」そのものは、ユダヤ勢力も認識しているだろう。これまで彼らの思い通りに動いてくれたブッシュ大統領とは言え、2期目(憲法上、再再選はない)を迎えて豹変する恐れがあることを。
ケリー株がこのところ上がってきている背景には案外そうした「牽制」があるのかも知れない。



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