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20081117

国籍法改正反対運動の愚

国籍法改正に反対するネット運動が広がりつつある。
阿呆と評するよりない。
法治国家のなんたるか、三権分立の何たるかさえ知らない盲人の集まりのようだ。
こんなことでは、先日、韓国で起きたアメリカ産牛肉輸入反対デモを笑えない。
謹んで彼ら愛国者に苦言を呈するが、国を思うのであれば、まずは国のために有為の人となるよう、努力をしてはどうか。
あれも知らない、これも知らない、法学の基礎の基礎さえ知らない、かくも無知蒙昧で、どうしてものの役に立つというのか。
日本国はかくも無知蒙昧な者たちの助力を必要とするほど安い国ではない。
祖国の名を辱めるのもいい加減にして貰いたいものだ。

法治国家の基本原理として、憲法がある。日本国の場合はそれは日本国憲法だ。
日本国憲法が更に依拠する法理念として、法の支配があり、人権の尊重は単なる条文を超えて、性格を改変されない普遍的な価値観とされている。
国会における国籍法改正の動きは、今年の6月24日に最高裁大法廷で示された婚外子国籍確認訴訟で、従来、国籍法で規定されていた父系婚外子のうち、父親が日本人、母親が外国人で生後認知を受けた子弟には日本国籍の所与の所得が認められないとする規定が、違憲であるとの判決が下されたのを受けている。
違憲であるならば、改正をするのは手続き的に当然であり、意思の主体は国会にはなく、最高裁にある。
国会に働きかけても無駄だということだ。

既に該当部分の法的な実効性は失われており、ただ形骸化した条文だけが残っている。
しかし法律を改変できるのは国会だけなので、行政は本来的には法が定めたとおりの行動をとらなければならない。
しかし法が定めたとおりの行動をとれば、この場合はすでに違憲判決が判例として確立されているので、裁判になれば国は敗訴するのは確実である。
賠償金も請求される余地も充分にある。
かつて刑法の尊属殺人規定について、1973年に違憲判決が下されて、この規定は無効化されたが、国会では1995年になるまで主に自由民主党の保守的な政治家の反対によって、刑法改正がままならなかった。
そのため法務省は省令としてこの規定を適用しないことを通告したが、厳密に言えばこれは三権分立からの逸脱である。
これは国会の怠慢と批判されてもしかたがなかろう。
今回の国籍法婚外子規定の一部についての違憲判決はそれよりも更に難しい立場に法務省を置いている。
尊属殺人を適用するかどうかを決めるのは検察、つまり法務省であり、彼らは能動的な立場からの判断が出来たが、国籍法の問題の規定については、彼らが被告となって訴訟を起こされる受動的な立場だからである。
行政として厳密に法律を適用すれば、裁判を起こされ、そうなれば必ず彼らは敗訴するという矛盾した立場に彼らは置かれている。それもおそらく賠償金支払いを伴って。

こうした矛盾を解消するために、一時的な措置として、当時の法務大臣は違憲判決を受けて、とりあえず申請書を受理をしたうえで保留することを明らかにした。
そのうえで、国会で法改正を行う、これ以外に法務省が置かれたジレンマを解消する手立てはないのだ。
国籍法改正に反対している「愛国者」の主張が万が一通って困るのは、偽装入国者やヤクザでもなく、該当婚外子とその両親でもなく、ただ法務省だけである。
そして法務省が支払うであろう賠償金は国民の税金である。
これが愚かでなくてなんであろう。彼ら「愛国者」はただ国家を困難な立場に追いやっているだけである。

日本には憲法裁判所はない。最高裁にも憲法裁判所的な機能は付与されていない。憲法裁判所が存在する国では、憲法裁判所もしくは最高裁が違憲判決を下せば、その法律の該当部分は直ちに廃止になる。
日本では裁判所が関与できるのは具体的な訴訟だけなので、訴訟になれば、違憲判決に従って判断が示されるが法律を廃止できる権限はない。
それはただ、国会のみに与えられているのだ。
であればこそ、国会はなおのこと、迅速に最高裁の司法判断に沿った法律改正なり立法なりを行う責務が課せられている。
尊属殺人規定を22年も無効ながら放置してきた国会の怠慢、保守政治家たちの売国的とも言える法治国家への裏切り行為はどれほど非難したところでし過ぎるということはない。
彼らこそ国を危うくする者たちである。

韓国のファンダメンタルズの危機をいち早く分析し、警鐘をならしてきた中小企業診断士の三橋貴明氏が氏のブログで、国籍法改正反対運動を展開している。
ここに書いたようなことを、私としては考え得る限りの紳士的な表現で氏のブログにコメントを書き込んだが、速攻で削除されていた。
何を削除しようが氏の自由ではあろうが、その行為に対する批評は別個に成立するものであり、氏のこれまでの経済に関する仕事を評価すればこそ、氏のこの問題に関する、無知と評するよりない言動が残念であるし、異論でさえない事実の指摘にさえ耳をふさぐ態度は、氏の言動への信頼をおおいに損なわせることになるだろう。

参考:
国籍法改正に関する反対意見の稚拙さ - 冥王星は小惑星なり
国籍法改正案に反対します - 新世紀のビッグブラザーへ blog
リアリティのない筋書き - I'll be here−社労士 李怜香(いー・よんひゃん)の多事多端な日常
国籍法改正について語るための基礎知識(2):裁判官たちは何を争い、何を国会に託したのか - 半可思惟
○○○!知恵袋 国籍法は改悪なんでしょうか? - いしけりあそび
国籍法3条1項の改正に反対することはエネルギーの無駄である - la_causette



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